Greco J-80E への、PLEK を活用したリフレット
今日は、Greco のアコースティック J-80E へのリフレットについて紹介します。
ご依頼いただいたのは、こちらの J-80E。
色味も素敵で、かっこいいですね。
まずは、リフレットが必要と判断した要因について説明したいと思います。
こちらが、PLEK で可視化したネックの状態です。
2段になっていますが、上段が1弦部の、下段が6弦部の断面図です。
画像見て左側がヘッド側、右側がボディ側です。下部の灰色の部分が指板で、ネックの反りを表します。
ギザギザがフレットで、その上の数字(mm)がフレットの高さ。赤い折れ線がフレットの頂点を結んだ線。緑の曲線が、想定される弦の振幅です。
見て分かることが、1弦は最終フレット付近が少しフレットが高いですが、ネックは程よい順反りで、非常に良い反り方をしています。
一方、6弦側はネックの中腹が盛り上がっているように見えるかと思いますが、これが強めの逆反りです。
逆反り部では、弦の振幅にフレットが干渉し、音が詰まったりビビってしまいます。
1弦側と6弦側で反り方が異なるこの状態は、いわゆる「ねじれ」と呼ばれる症状です。
このギターの場合は、順反りと逆反りという対照的な反り方ですので、そのねじれの度合いは大きいと言えます(ねじれと聞くと、おおごとに感じるかもしれませんが、非常によくある症状の一つです。ネックの反り方の例は、こちらの記事でも解説しています[解説] ネックの反りとフレットの関係)。
この状態では、例えば6弦側の逆反りを解消するためにトラスロッドを緩めると、1弦側が過剰に順反り、それによるビビりや音詰まりが出てしまいます。
通常であれば、このようにネックがねじれていても、各ポジションのフレット高を調整することでバランスをとります。
ではありますが、もう一つの要素も合わさっているために、それが難しくなっています。それは、フレットの高さです。
もう一度、6弦の断面図を見てみましょう。
フレット(ギザギザ)の上の数字がフレットの高さ(mm)を表しますが、0.7mm 台のものが多いことが分かります。
フレットの高さは、アコースティックは新品時には1.1mm〜1,3mm ほど。中古でも1mm はあるのが一般的です。
0.7mm という高さは、それと比べるとだいぶ低くなっています。
この低さでは、バランスを取るために削る余裕がありません。
よって、ネックのねじれ気の強さと、フレットに削る余裕が残っていないことから、リフレットとの判断になりました。
仮に、ネックのねじれの度合いが弱いか、フレットが全体的に0.2mm〜0.3mm ほど高ければ、リフレットは必要ないとの判断になりました。
「フレットが消耗したらリフレット」と思われがちではありますが、そういうわけではなく、ネックの個性の度合いとフレットの高さの兼ね合いが判断要素になります。
フレットの消耗度が大きくてもネックが素直に順反ってくれていたり、ネックの個性の度合いが強くてもフレットに十分な高さがあれば、リフレットは必要ないことがほとんどです。
リフレットの必要性やその目的については、こちらの記事 [解説]リフレットの目的とメリット にて詳しく紹介しています。
それでは、リフレットに進めましょう。
まずはフレットを抜き、指板を削り補正していきます。
なぜ指板を削るかという、ネックの反りの個性の影響を取り除くためです。
このネックの場合ですと6弦の逆反り部と1弦のハイポジションを重点的に削り、指板上で程よい順反りを作ることを目指します。
削りながらネックを測定し、目標に対するギャップを確認しながら進めていきます。
例として、こちらが6弦の断面図です。
青い曲線が、目安となる綺麗な順反りのライン。赤い曲線が現状を表します。
6弦は、3フレットから10フレット向けて逆反り部を削ってあげると理想に近づけられることが分かります。
削る、チェックする、を繰り返していきます。
作業を繰り返し、目標ラインに到達できました。
上段が1弦、下段が6弦です。
6弦は、逆反りの影響が綺麗になくなっているのが分かりますね。
実線(赤)と目安(緑)に少しギャップがありますが、これは目安であることと、そのギャップも0.1mm であることから、この状態で OK と判断します。
指板を削ることで、ねじれの影響が取り除けましたので、新しいフレットを打っていきます。
フレットを打ったら、新しいフレットの高さに合わせてナットを作り変えます。
まれに必要ない場合もありますが、ほとんどのリフレットでは、ナット交換も必要です。
交換しなければ、新しいフレットに対して低すぎる(溝が深すぎる)状態になってしまいます。
ナットを交換したら、PLEK でフレット高を整えます。
フレット形成が終わりましたので、リフレット前後のネックとフレットの状態を見比べてみましょう。
こちらが6弦の断面図です。
上段がリフレット前、下段がリフレットして PLEK で整えた後です。
もともとあった、ネック中腹の逆反り気が綺麗になくなっているのが分かりますね。弦の振幅を抑える要素がなくなっているために、どのポジションでも綺麗に鳴るのが分かります。
フレットの高さも十分になっていますので、今後何度でもフレット調整を施せる余裕も生まれています。
ネックとフレットの状態が最適になりましたので、フレットとサドルのバランスも、形成後のフレット R と、お客様のご希望のセッティングに合わせていきます。
セッティングが完了したら、鳴りと弾き心地を確認して完了です。
元々あったビビりがなくなり、どのポジションでも綺麗に鳴ってくれています。
また、元々は、ネックが逆反っていてサドルが高いという状態でもありました。
元よりサドルを下げつつも鳴りをクリアにすることができています。
以上、Greco J-80E へのリフレットの例の紹介です。
リフレットは、フレットを抜くことで指板を削ることが可能になり、それによりネックの個性の影響をできる限り取り除くことができるというメリットがあります。
GLIDE のリフレット https://glide-guitar.jp/pages/re-fret