[解説] ネックの反りとフレットの関係

今日は、ネックの反りとフレットの関係性についてお話ししたいと思います。

ネックの反りとフレットと言っても、色々な要素がありますので、日頃からよくお客様にご質問いただく、以下の3点についてお話したいと思います。

1. ネックはまっすぐじゃないの?
2. ネックの反りの種類
3. ネックの反りとフレットの関係


1. ネックはまっすぐじゃないの?
「ネックはまっすぐだ」と思われている方も多くいらっしゃいますが、ネックは程よく順反っているのが適正です。
なぜ程よく順反っている必要があるのかというと、弦の振幅にフレットが干渉しないようにするためです。

例えば、輪ゴムを弦に見立ててみましょう。両手が弦の支点であるナットとサドルとしてます。



輪ゴムを弾くと、中腹の振幅が一番大きくなるのが想像できるかと思います。

弦もこの輪ゴムと同じで、支点と支点の中腹の振幅が一番大きくなります。
ネックがまっすぐ過ぎると、弦の振幅がフレットに当たりやすくなってしまいます。
つまりは、弦の振幅に合わせて、ネックが程よく順反っていることが、ビビりや音詰まりなく弾くために必要な条件と言えます。

ではありますが、これはあくまでネックが綺麗に順反っていることが前提となる理論と言えます。
「綺麗に反るのが普通じゃないの?」と思われるかもしれませんが、それについては次の項で説明します。


2. ネックの反りの種類
ネックには、ネックの数だけ個性があります。
ギターを選ぶ時は、そのネックの作りの精巧さに目が行きがちですが、大事なのは、チューニングした時(弦の張力がかかった時)に、どのように反る(しなる)かです。
弦を張った時に綺麗に全体的に順反ってくれるのが一番良いのですが、その反り方は、本当に様々です。
順反り、逆反り、ハイ起き、波打ち、ねじれ等、様々な反りの性質があり、それらが混在しているのも、よくあることです。

例として、反りの種類を見てみましょう。
こちらが PLEK で可視化した、順反りが強いネックの断面図です。



画像を見て左側がヘッド側。右側がボディ側です。
下部の灰色の部分が指板で、ネックの反りを表します。
ギザギザがフレットで、赤い折れ線がフレットの頂点を結んだ線。緑の曲線が、想定される弦の振幅です。

灰色の部分(ネックの反り)が、しなっているように見えるのが分かるかと思います。
これが順反りです。程よい順反りは必要ですが、これは必要以上に反っています。

順反りが強すぎると、ポジションによっては弦とフレットの頂点とのギャップが大きくなり、弦高が高くなります。
弾きやすい弦高にするにはサドルを必要以上に下げなければならず、支点としてのバランスが悪くバズが出やすくなってしまいます。
また、ポジションによっては弦の振幅にフレットが干渉しやすくなり、ビビりや音詰まりを生んでしまいます。

次にこちらが、逆反りが強いネックの断面図です。



ネック(灰色の部分)の中腹が盛り上がっているように見えるかと思います。
これが逆反りです。
逆反りは、フレットが弦の振幅に顕著に干渉してしまいます。
その度合いが強いと、著しく弦高を高くしてもビビりや音詰まりは取り除けません。


他の例も見てみましょう。こちらがハイ起きです。



ハイポジションがボディ側に向かって急な坂道のように反り上がっているのが分かるかと思います。
これが非常に強いハイ起きです。
ヘッド側から見ればハイポジションが反り上がっているように見えますが、ボディ側からは、14フレット辺りから折れるように反っているようにも見えます。
ハイ起きは、あるポジションを起点に折れるように反る特性で、「腰折れ」とも呼ばれたりします。
ハイ起きが強いと弦の振幅がフレットに当たりやすく、鳴りを抑えたり音を詰まらせてしまいます。
度合いは様々ですが、非常によく見られる症状の一つです。


もう一つ見てみましょう。こちらが波打ちです。



見ていただくと、ローポジションが盛り上がっており、ハイポジションが反り上がっているのが分かるかと思います。
ローポジションが逆反り、ハイポジションがハイ起きです。通称の通り、波打っているように見えますね。
逆反り部でもハイ起き部でも、弦の振幅がフレットに当たってしまいます。
この状態では、ローポジションの逆反りを解消しようとトラスロッドを緩めると、ハイ起きがより目立ってしまいます。
ハイ起きを抑えようとトラスロッドを締めると、逆反りが目立ってしまいます。

以上が、代表的なネックの反り方です。
これらの他にも、高音弦側と低音弦側で反り方の性質が異なる、ねじれ等もあります。

弦の張力がかかった時に綺麗に順反ってくれるのは本当に稀で、ほとんどのネックには、上記のような性質が大なり小なりあり、混在していることもよくあります。
「安いギターは反りやすい」と思われている方も多いですが、経験上、価格差と反り方は、相関しません。
本当に、一本いっぽん個性があります。

「反っちゃうなんて、悪いネックなのかな?」という言葉もよくいただきますが、これは全然悪いことではなく、木製品としての特性と言えるかと思います。
木製品ゆえ、弦を張って張力がかかってみないと、どのように反る(しなる)かは分からないものです。

反ることは悪いことではなく、それは張力がかかる木製品としての特性ですので、その反りの個性を把握した上で、その反りの影響を踏まえて調整してあげることが大事と言えます。

では、その反りは何に影響して、どのように調整する必要があるのか?
次の項で説明します。


3. ネックの反りとフレットの関係
見ていただきました通り、ネックには様々な反り方がありますね。
そのため、ギターの状態を見るには、まずネックの反り方を確認します。


中古ギターの商品ページでも、「ネックの反り方はどのような感じで〜」という説明をよく目にすると思います。
慣れれば目視でも大体の反り方は把握できますので、ご自身のギターのネックを日々チェックされている方も多いかと思います。

確かに、ネックがどのように反っているかは重要です。ではありますが、一番大事なのは、フレットの頂点を結んだ線がどのように描かれているかです。

参考に、先ほどの波打ちしているネックを見てみましょう。


ネックの反り(灰色の部分)に伴って、フレット頂点を結んだ線(赤い折れ線)が、弦の振幅(緑の曲線)に干渉しているのが分かるかと思います。
フレット(ギザギザ)の上の数字が各フレットの高さ(mm)ですので、フレット自体の消耗度の違いもありますが、赤い折れ線(フレットの頂点を結んだ線)は、ネックの反りと連動していることが分かるかと思います。

つまりは、その反りの個性によりフレットの頂点を結んだ線がどのように描かれていて、それが弦の振幅に干渉しているのか、していないのかが肝です。
一番大事なのはネックの反りではなく、それによって変わるフレットの頂点を結んだ線です。
ですので、トラスロッドでネックの反りを調整するということは、フレットが弦の振幅にできるだけ干渉しないようにすることと言えます。



調整はまず、トラスロッドを締め緩めし、ネックの反りをできるだけ理想的な程よい順反りに近づけます。
ですが、上記の例のような過剰な反りの場合はトラスロッドの効き幅を超えてしまっていたり、波打ちやねじれがあると、あるポジションが良くなっても他のポジションの反りをかえって強めてしまいます。
また、過剰なハイ起きはほとんど改善することができません。
そのため、トラスロッドはあくまで、ある程度の改善ということになります(もちろん、良いバランスにセットできることもあります)。

そこで必要になるのが、フレット高の調整です。
反りの影響でフレットが弦の振幅に干渉していても、干渉している部分を削れば、弦の振幅を活かすことができます。
乱暴に言えば、ネックの反り方が理想的ではなくとも、フレットの頂点を結んだ線が弦の振幅に沿って綺麗な弧を描いていれば、問題ありません。

例えばこちらが、できる限りトラスロッド調整でバランスを取ったネックです。



ローポジションからミドルポジションにかけては綺麗な順反りで、4フレットを除いてフレットの頂点を結んだラインも弦の振幅に沿っています。
ではありますが、ハイ起き気がやや強く、その影響でフレットが弦の振幅に干渉してしまっています。端的に言えば、ハイポジションで音が詰まります。
もっとトラスロッドを締めてハイ起きの影響を抑えたいところではありますが、これ以上締めると、ミドルポジションが逆反りしてしまいます。
つまりは、このネックにおいては、この反り具合ができる限りのトラスロッドでの調整と言えます。

この状態に対し、4フレットとハイポジションのフレットの高さを弦の振幅に合わせて整えてあげれば、音詰まりを取り除けます。

こちらがフレット高の調整(形成)後です。



すべてのフレットの頂点を結んだ線が、弦の振幅に合わせて美しい弧を描いていますね。

画像を並べて比べてみましょう。
上がフレット調整(形成)前、下が後です。




弦の振幅に干渉していた部分が、綺麗に取り除かれているのが分かりますね。
つまりは、フレット高を調整(形成)することが、ネックの個性に対する効果的な調整法です。


以上が、
1. ネックはまっすぐじゃないの?
2. ネックの反りの種類
3. ネックの反りとフレットの関係
の、3点についての解説です。

端的にまとめると、

1. ネックはまっすぐじゃないの?
→まっすぐは推奨できない。弦の振幅に合わせた程よい順反りが適正。

2. ネックの反りの種類
→見るべきは、弦の張力がかかった時にどのように反る(しなるか)。
ネックの反り方は一本いっぽん様々。反り方や度合いもそれぞれで、異なる反りが混在していることもよくある。
でもそれは悪いことではなく、張力がかかる木製品としての特性。
反りの性質や度合いと価格は相関しない。

3. ネックの反りとフレットの関係
→反りの個性の影響でフレットの頂点を結んだ線がどのように描かれているかが、一番大事。
トラスロッド調整では、ある程度の改善で留まることが多い。
フレット高の調整(形成)が効果的。

ということになります。

今回は上記の3点についての解説でしたが、もちろん、フレット高を調整(形成)した後に、体感的な弾きやすさと鳴りの良さを引き出す調整も必須です。
それについては、こちらの PLEK 調整についての説明をご覧ください。



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