[解説]リフレットの目的とメリット

今日は、リフレットについてお話ししたいと思います。
リフレットと一口に言っても、色々な切り口がありますので、日頃よくご質問いただく、

1. リフレットが必要なネック状態とは?
2. リフレットの目的とメリットは?

の、2点について解説したいと思います。

1. リフレットが必要なネック状態とは?
「フレットが消耗してきたらリフレット」と思われている方も多くいらっしゃいますが、決してそういうわけではありません。
実際、リフレットで依頼を受けても、リフレットせずに済んだという例も本当にたくさんあります。
フレットに凹凸ができて音詰まりが出ていても、フレット調整で改善できることがほとんどです。
もちろん、過剰にフレットが低くなっていて調整幅がなければフレットを新しくする必要がありますが、ある程度の消耗であれば、フレット調整でカバーできます。

では、どういう状態の時にリフレットが必要になるかというと、フレット高とネックの個性のバランスが調整幅を超えてしまっている場合です。

いくつかの例を説明します。



上の画像が、PLEK で可視化した、リフレットが必要と判断したネックの断面図です。
画像見て左側がヘッド側。右側がボディ側です。
下部の灰色の部分が指板で、ネックの反りを表します。
ギザギザがフレットで、その上の数字(mm)がフレットの高さ。赤い折れ線がフレットの頂点を結んだ線です。

それぞれのフレットの高さは1mmから1.1mmほどで、十分な高さがあります。
一般的によく使われる新品のフレットは、1.2mmから1.4mmほどですので、そこまで消耗が目立っているわけではありません。

ではなぜリフレットが必要と判断したかというと、ネックの反りの個性との兼ね合いです。

見ていただくと、指板がハイポジションに向けて強く反り上がっているのが分かるかと思います。
これが、非常に強い順反りと、ハイ起きが混在している状態です。
また、この状態は、トラスロッドをほぼ締め切った上ででした。
ネックをこれ以上まっすぐ寄りにセットできず、フレットの弦の振幅への干渉を取り除けません。
ローポジションの順反りも強いため、弦の振幅に合わせてフレットを調整しようとすると、ハイポジションはフレットを半分ほど削らなければならず、調整できる度合いを超えてしまいます。

このような状態に対しては、指板を削り、強すぎる順反りやハイ起きの影響を取り除く必要があります。
そのため、リフレットが必要という判断になりました。

もう一つ、別のギターの例です。



先ほどのネックとは対照的に、こちらは逆反りです。
2フレットから10フレットにかけて指板が盛り上がっているように見えるかと思いますが、これが強めの逆反りです。
トラスロッドを緩めて順反りの方に戻してあげたいところですが、トラスロッドを緩め切ってしまっていました。
フレットは0.7mm台のものが多く全体的に低めですが、バランスは整っています。
もしネックが綺麗に順反っていてくれていれば、弦の振幅にフレットが干渉しません。
こちらも、指板を削り逆反りの影響を取り除く必要があるために、リフレットが必要との判断になりました。
もしネックが綺麗に順反ってくれていれば、リフレットの必要はなかったと思われます。

このように、フレットの消耗だけではなく、ネックの状態や個性の影響が強く、調整幅を超えている際に、リフレットが必要になることがほとんどです。
よく使うポジションのフレットが他よりも多く消耗していることもよくありますが、ネックの状態や個性の影響が少なければ、バランスを取り改善できることがほとんどです。

参考までに、ネックの反りの種類については、別の記事「ネックの反りとフレットの関係」でも説明しています。


2. リフレットの目的とメリットは?

最終的な目的で言えば、弾きやすく鳴りよくするためですが、工程における目的で言えば、上記のようなネックの状態や個性の影響を取り除くことと、フレットを新しくすることで、今後の調整幅を広げることです。

リフレットの例を紹介します。



SCHECTER の PJ タイプです。
マホガニー・ボディ & ネックのスペックが、かっこいいですね。

ネックを見てみましょう。
こちらが元の状態です。

ネックに非常に強い順反りとハイ起きが混在しているのが分かります。
試しに、トラスロッドを締め込んだ場合にどれほど順反りが軽減できるかを見てみます。



少し改善しましたが、ローポジションの順反り気とハイ起きが、依然として強く残っています。
ローポジションとハイポジションのギャップが非常に大きいため、バランスを取ろうとすると、ハイポジションのフレットを削る量が多すぎ、調整幅を超えてしまいます。

そのため、鳴りよく、弾きやすくするためにはリフレットとの判断になりました。

フレットを抜き指板を削り補正することで、反りの影響を取り除いていきます。
もちろん、トラスロッドは両方向に十分に効くようにセットしてから行います。
このためにリフレットすると言っても過言ではありませんので、重要度の高い工程です。



PLEK で測定し確認しながら削っていきます。



見方は先ほどの断面図と同じで、左側がヘッド側。右側がボディ側です。
青い曲線が、目安となる程よい順反り。赤が現状を表します。

目安に近づけていくことも大事ですが、指板の状態や、リフレット後に目指すセッティングに必要な条件も踏まえながら削っていきます。
チューニングして弦の張力がネックにかかった状態を可視化し確認できるのも、PLEK を活用する利点と言えます。



程よい順反りを作ることができました。



目安の線(青い線)と少しギャップがあるように見えますが(あくまで目安です)、十分に程よい順反りは作れているので、指板を過剰に削らないためにも、この辺りで留めておきます。

そして、フレットを打ち、PLEK で各フレットの高さと R を整えます。



こちらのフレット形成の動画は別のギターのものです(あくまで参考用です)



こちらが、PLEK 後の状態です。



弦の振幅を妨げる要素がなくなっているのが分かります。
リフレット前後でも見比べてみましょう。
上がリフレット前、下が後です。




指板(灰色の部分)を削ったことで、ネック状態の影響が取り除かれているのが分かりますね。
リフレット前は、どのポジションを押さえても弦の振幅にフレットが干渉してしまう状態でしたが、リフレット後の下段では、どのポジションも綺麗に鳴る状態へと改善しているのが分かります。
トラスロッドに余裕を持たせられているのもポイントです。
フレット自体も新しくなりましたので、今後の消耗や状態の変化に対しても、何度も調整できる幅が確保されています。

以上、リフレットの例の紹介です。


話をまとめると、

1. リフレットが必要なネック状態とは?
→決してフレットが消耗したから必要というわけではなく、フレットの高さとネックの状態とのバランスが調整幅を超えている際に必要

2. リフレットの目的とメリットは?
→指板を削りネックの状態や個性の影響を取り除くのが一番の目的。状態が改善するだけではなく、今後の調整幅も大きく広がる

ということになります。


フレットの消耗は目視でも分かりやすいですが、ネックの反りとの兼ね合いは、把握するのがなかなか難しいかと思います。
測定と検証は無料ですので、「リフレットが必要かな?」と思いましたら、お気軽にご相談ください。
GLIDE のリフレットは、指板を削るところから PLEK での仕上げまでを込みで行っております。



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