Gibson Humming Bird への、PLEK を活用したリフレット
おかげさまで日々たくさんのご依頼をいただいている、PLEK を活用したリフレット。
今日は、Gibson Humming Bird の例を紹介します。
リフレットしたのは、こちらのハミングバード。
「弦高が高い、ピッチがルーズ」というお悩みから、ご依頼いただきました。
まずは、全体的に状態を確認します。
お客様が感じられている通り弦高は高めで、かつ4弦が一番高いと、バランスも乱れており、4弦で2.7mm あります。
ネックが逆反っており、その上でのこの弦高ですので、サドルも高いと言えます。
逆反りは弦の振幅を顕著に抑え、また高すぎるサドルは鳴りをぼやけさせてしまいます。
弦がしっかり振幅できておらず、音もぼやけやすいことから、ピッチのルーズさが感じられていると考えられます。
正確に状態を把握し検証するために、ネック状態をスキャン測定してみましょう。
GLIDE ではリフレットの際は、まず、「リフレットが必要か?」という観点で検証します。
リフレットの依頼を受けても、その必要はなかったというのも、よくあることです。
ネックの反りの度合いや個性と、フレット高のバランスを考慮し、必要かどうかを判断します。
PLEK で、ネック状態を可視化します。
それではネック状態を見てみましょう。
こちらがネックの断面図です。
2段になっていますが、上段が1弦部の、下段が6弦のです。
画像見て左側がヘッド側。右側がボディ側です。
下部の灰色の部分が指板で、ネックの反りを表します。
ギザギザがフレットで、その上の数字(mm)がフレットの高さ。赤い折れ線がフレットの頂点を結んだ線。緑の曲線が、想定される弦の振幅です。
1弦側も6弦側も、指板(灰色の部分)の中腹が盛り上がっているように見えるかと思いますが、これが逆反りです。6弦の方が度合いが強いのも分かります。
この逆反りにより、弦の振幅にフレットが干渉しているのが分かります。逆反りが強いと、たとえ弦高を高くしても、音がビビりやすく鳴りも抑えられてしまいます。
6弦側を見ると分かりやすいですが、ハイポジションが少し盛り上がっているように見えるかと思います。
簡単に言えば、これはハイ起きと似たような状態です。
ネックが逆反っているためにその度合いは抑えられていますが、順反りの方にネックを戻してあげると、この度合いがどんどん目立ってきます。
そのため、このネックは、やや強めのハイ起き気があり、そのハイ起きを抑えるにはミドルポジションが逆反るほどまでトラスロッドを締めないといけないという状態であると言えます。
逆反りの方を基準に置けば、やや強めにハイ起きするほどトラスロッドを緩めなければ解消できない逆反り気があるとも言えます。
「高いギターなのに反るの?」ということもよく尋ねられますが、弦の張力がかかった際のネックの反り方は、価格にかかわらず一本いっぽんそれぞれです。
これは悪いことではなく、張力がかかる木製品ゆえの特製と言えるかと思います。
次に、フレットの高さを見てみましょう。
1mm を切っているフレットが多いことが分かりますね。
アコースティックギターは、中古でも1mm以上あるのが一般的ですので、全体的に低くなっていると言えます。
この高さでも問題ないのですが、ネックの逆反りとハイ起きのバランスを取るためにフレットを調整すると、全体的に0.8mm〜0.9mm ほどになります。
この0.8mm〜0.9mm という高さも低すぎるという訳ではないのですが、今後弾き込んでいくことでフレットの凹凸ができて来た際への、調整する余裕が残っていません。
そのことから、お客様とも相談し、これを機会にリフレットしましょうということになりました。
それでは、リフレットを進めます。
まずはフレットを抜きます。
フレットを抜いたら、指板を削り補正していきます。
トラスロッドを両方向に余裕を持たせた位置にセットしてから行います。
リフレットの際に指板を削ることはあまり認知されていませんが、このためにリフレットすると言っても過言ではない工程です。
ネックの反り度合いが強い状態に対しては、その反りの個性は変えられませんので、指板を削り、指板上で程よい順反りを作っていきます。
こちらの記事 [解説]リフレットの目的とメリット でも詳しく説明しています。
削りながら測定を繰り返し、目指すべき程よい順反りを指板上で作れているか確認しながら進めていきます。
測定は、弦を張りチューニングして行います。
ネックで大事なのは張力がかかった時にどうなっているかですので、それを可視化しながら作業を進められるのも、PLEK の利点の一つと言えます。
こちらが、削りながら測定したネックの断面図です。
先ほどの画像と同じく、左側がヘッド側。右側がボディ側です。
端的に言えば、赤い線が現状の指板、青い線が、目安となる程よい順反りです。
元の状態よりもトラスロッドを緩めていますので、ハイ起きしているような状態になっているのが分かります。
削る、測定する、を繰り返していきます。
途中経過を見てみましょう。
ハイ起きの度合いが軽減されてきているのが分かりますね。
さらに削ります。
ハイ起きが綺麗になくなりました。
ミドルポジションに少し現状と目安でギャップがありますが、あくまで目安であり、程よい順反りが作れていますので、これで OK とします。
フレットを打つ前に、溝を整えます。
指板を削ると溝が浅くなることもありますので、しっかりフレットを打ち込むための準備をするような作業です。
そして、フレットを打ちます。
フレットの種類やメーカーは、お客様の方で指定があればそれに。
特になければ、そのギターに合うものを当店でチョイスいたします。
フレットを打ち終わったら、ナットを作ります。
リフレットの後は、新しいフレットの高さに対してナットが低すぎる(溝が深すぎる)ことがほとんどです。
ナットの素材も、お客様の方で指定があればそれに。特に指定がなければ、そのギターに合うものを提案させていただきます。
今回は、一般的な牛骨で製作しました。
牛骨のブロックを削り、形成していきます。
ナットを交換したら、PLEK でフレットの高さと R を整えていきます。
ナット溝は、この時点では仮のままで留めておきます。
PLEK でのフレット形成が終わったネック状態を見てみましょう。
先ほどと同じく、上が1弦、下が6弦です。
程よい順反りが作れており、フレットの頂点を結んだ線も、弦の振幅に干渉していないことが分かりますね。
同じ6弦どうしで見てみましょう。
上が元の状態で、下がリフレット&PLEK 後です。
逆反りもハイ起きも綺麗に取り除かれ、フレットの頂点を結んだ線も弦の振幅に反って綺麗な弧を描いているのが分かりますね。
ネックとフレットの状態がベストになりましたので、セティングを詰めていきます。
お客様のお悩みである弦高の高さを解消しつつ、できるだけ弾きやすくすることも念頭に進めます。
まずは、形成したフレットの R に合わせて、最適な高さ(溝の深さ)にナットを調整します。
ナットは貴重な弦の支点の一つですので、重要度の高い調整項目です。
ナットの調整が終わったら、サドル調整です。
フレット R にサドル上面の R を合わせ、各弦の高さとバランスを整えていきます。
元は、ネックが逆反っていながら弦高がそこそこ高いという状態でしたので、サドルが過剰に高くなっておりました。
高いサドルが悪いというわけではないのですが、過剰に高いサドルは、音のぼやけやすさへと繋がります。
もちろん、トップ板やネック状態との兼ね合いにもよりますが、高すぎず、フレット R に沿って弦高バランスも整っているのが、良いサドルと言えます。
いきなり目指す形や高さに削ることはせず、少しずつ形成し弦を張り、体感的な弾き心地と、弦の振幅に対する影響を確認しながら進めます。
ナットとサドルが適正に調整できたら、サウンドチェックです。
鳴りと弾き心地が狙い通りに実現できているかを、確認していきます。
狙い通りの状態が実現できていることを確認して完了です。
参考に、セッティングは、1弦1.7mm - 6弦2.1mm と、アコースティックとしは低めにセットしました。
元よりも全体的に弦高を下げながらも、鳴りを抑える要素を取り除いていることで、音圧やクリアさを増すことができています。
逆反りの影響がなくなり、サドル高も適正になったことで、各ポジションでも発声も良くなっておりますので、ピッチの違和感も可能な限り取り除いています。
加えて、今回リフレットしたことで、今後に何度もフレット調整を施せる余裕が生まれています。
後日お客様からも、「鳴りの迫力がアップした。気になっていたピッチもバッチリ」との嬉しいご感想もいただきました。
以上、Humming Bird への、PLEK を活用したリフレットの例の紹介でした。
ネックの反りの個性とフレット高の兼ね合いと、今後のためにリフレッシュという観点でのリフレットの例にもなるかと思います。
GLIDE のリフレット
