PLEK を活用した、Martin 000-28 の調整

おかげさまで日々たくさんのご依頼をいただいている、PLEK を活用した調整。
今日は、Martin 000-28 の例を紹介します。

「弦高を下げたいので」とご依頼をいただいた、こちらの 000-28。
測ってみると弦高は、1弦で2.3mm、6弦で3.2mm もあります。



確かに弦高は高いですが、鳴りの寂しさも感じられます。
状態を可視化して、検証してみましょう。



こちらがスキャン結果です。



画像上側がネック1弦部の、下側が6弦部の断面図です。
ギザギザがフレットで、その下の灰色の部分がネックの反りを表します。
フレットの上の数字(mm)は、フレットの高さです。

このことから分かるのが、ネックに少しハイ起き気があり、加えてローポジションからミドルポジションにかけて逆反っています。
また、1弦はフレットの高さにガタつきが出てしまっています。

この状態では、逆反りにより弦の振幅がフレットに当たり、鳴りが抑えられています。
加えて、フレットバランスの悪さから、音も詰まりやすくなっています。

トラスロッドを調整して、逆反りを順反りの方に戻してあげてみましょう。



そして、スキャンします。



こちらが6弦の断面図です。
逆反りはそこそこ戻ってくれましたが、依然残っています。
全体的には順反ってきてくれているのに対し、ローポジションの逆反りが残っていることから、ローポジションの逆反り気が強い個性があることが分かります。

トラスロッドをもっと緩めてあげて逆反りを取り除いてあげたいところではありますが、これ以上緩めるとミドルポジションからハイポジションにかけては順反り過ぎ、ハイ起きと同じような状態になってしまいます。

つまりは、このネックの個性においては、ここまでが順反りのリミットということになります。

それを踏まえ、この反り具合が、このギターにおけるベストと判断しました。



先ほどと同じく、上が1弦、下が6弦です。
1弦の方がハイポジションの順反りが強く、6弦側はローポジションの逆反りが強いですが、各弦で反り方が違うのは、いたって普通と言えます。
これが、両方のバランスを取った、このギターにおけるできるだけ適正値に近づけた反り具合です。
ではありますが、ネック状態の影響で、フレットバランスがベストとは言えない状態です。
加えて1弦はバラつきも目立ちます。
この状態で弦高を下げると、音詰まりがより目立ちます。よって、フレット調整が必須の状態と言えます。



そしてこちらが、フレット調整後です。
各フレットの頂点が、弦の振幅に沿った弧を描いています。

同じ6弦で見比べてみましょう。



上が調整前、下が調整後です。
ネック状態の影響を受けることなく、弦の振幅が抑えられず、どのポジションでも綺麗に鳴る状態へと改善しました。

弦の振幅が改善されましたので、次はナットとサドルを調整し、弾きやすくしていきます。
まずは今の高さをチェックしてみましょう。



こちらの画像が、弦の振幅と狙うべき弦高に対しての適正値(緑)と現状(赤)とのギャップを表します。
サドルが全体的に高いことに加え、ナット溝の R がフレット R に対して適正でないことが分かります。
あまり認知されていませんが、必要以上に高すぎる(溝が浅すぎる)ナットは、押さえにくさ(弾きにくさ)へと繋がります。

実測値と、押さえた時の体感値の両方を考慮しながら調整していきます。





ナットとサドルの調整も終わり、ご依頼主のご要望通り、鳴りも良く弾きやすい状態へと改善しました。
特に、6弦は2.5mm へと弦高を下げ、高すぎた(溝が浅すぎた)ナットも適正になったことで、だいぶ押さえやすく感じられます。

以上、000-28 の、PLEK を活用した改善例でした。
「弦高を下げたい」というご要望は多いですが、そのまま弦高を下げると、かえって鳴りが悪くなってしまうことがほとんどです。
この例のように、ネックの個性を見極め、それに合わせてフレットを整えることで、鳴りを向上させつつも弦高を下げることができます。





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