Gibson J-45 への、PLEK を活用した調整

おかげさまで毎日たくさんのご依頼をいただいている、PLEK を活用した調整。
今日は、Gibson J-45 の例を紹介します。
J-45 の依頼は非常に多くいただいており、そこから、所有者の多さが伺えます。
さすがはギブソンのスタンダード・モデルですね。

ご依頼をいただいたのはこちらの J-45。
「弦高が高い。音が悪くなってきた気がする」とのお悩みからのご依頼です。



手にとってみるとまず、3弦のナットが極端に低く(溝が深く)なりすぎているのが分かりました。
低すぎるナットは、開放弦での音詰まりを生んでしまいます。

その低さを数値で見ると、このような状態です。



上の画像がナットの状態を表します。
左から右にかけて、6弦から1弦です。赤い線が実際のナットの高さ、緑の線が理想の高さで、その上の数字が現実と理想のギャップを表します。
3弦だけが極端に低くなっていますね。
ここまで低くなっていると、ネックが多少順反り過ぎていたり弦高が高くても、音が詰まるほどです。

そこでまず、ナットを交換します。
牛骨のブロックを形成し、溝を掘っていきます。



ナット交換が終わりましたので、ネックをスキャンして状態を可視化し、お客様が感じている音の悪さの原因を特定していきます。



こちらが、可視化したネック1弦部の状態です。



画像見て左側がナット側、右側がブリッジ側です。
下部の灰色の部分が指板で、ネックの反りを表します。
ギザギザがフレットで、その上の数字(mm)がフレットの高さ。赤い折れ線がフレットの頂点を結んだ線です。

2フレットから10フレットにかけて指板が盛り上がっているように見えますが、これは強めの逆反りです。

6弦部分も見てみましょう。



1弦側ほどではないですが、ローポジションが逆反っていますね。
1弦側も6弦側も逆反りが強く、1弦側の方がその度合いが強めと言えます。

逆反りは顕著に音を詰まらせたり鳴りを抑えてしまいますので、トラスロッドを戻してあげて、どの程度改善できるのか見てみましょう。



こちらが、できるだけバランスを取るところまでトラスロッドを戻した(ネックを順反り側に戻した)状態です。



上段が1弦部、下段が6弦部です。
どちらとも、軽減されてはいますが、未だに逆反っていますね。
であれば、もっとトラスロッドを緩めて順反り寄りにさせてあげたいところではありますが、6弦の8フレット辺りは順反ってきています。
これ以上トラスロッドを緩めていくと、この部分の順反りが強くなりすぎ、ここで音詰まりが生じてしまいます。

よってこのネックは、1弦側と6弦側の反り方が違う、いわゆるねじれがあり、加えてポジションでも反り方にも違う個性があると言えます。

ねじれがあると、例えば1弦側に合わせてトラスロッドを調整すると6弦側が順反りすぎ(逆反りすぎ)る状態になります。
また、ポジションによる反り方の違いは、あるポジションの音詰まりを解消しようとすると、別のポジションの音が詰まるという状態になってしまいます。

よってこのギターは、トラスロッド調整を元にした一般的な調整では、鳴りへの悩みを改善できず、ネックの個性に合わせてフレットを整えてあげることが必須の状態であると言えます。

それでは、フレット形成へと工程を進めましょう。



こちらが、フレット形成後の状態です。



ネック状態の影響により凹凸のあったフレットのバランスが可能な限り理想のライン(緑の曲線)に揃っています。

同じ6弦で見比べてみましょう。



上が調整前、下が調整後です。
理想線(緑の曲線)よりも高くなってしまっていたローポジションのフレットが、綺麗に整えられていますね。
調整後は8フレット辺りに理想線と実線のギャップがありますが、この程度であれば、弦の振幅には影響ありません。

それでは、どこを押さえても綺麗に鳴るようになりましたので、弾き心地を追求していきましょう。

まずは、調整後のフレットバランスに合わせてナットを調整します。
高さ(溝の深さ)を適正値に合わせます。



ナットは体感的な押さえやすさに影響しますので、データとしての実測値と体感的な押さえ心地を確認しながら進めます。



ナットが終わったら、次はサドルです。
お客様から「弦高が高い」とのお悩みもありましたが、実際に6弦は3.3mmと、かなり高めになっていました。
ネックが逆反っている上でもその弦高でしたので、サドルが過剰に高いと言えます。

実際に数値でも見てみましょう。



左から右にかけて6弦から1弦のナットの高さを表しています。
赤が実際の高さ、緑が理想の高さ。その上の数字がギャップを表します。
サドルが全体的に高すぎることに加え、サドルの R がフレットの R に合っていないことも分かります。
R が合っていなければ、底面を削るだけでは適正な弦高にセットできず、2弦〜5弦がどうも弾きにくいという状況を生んでしまいます。

サドルもナットと同じように、実測値と体感度を照らし合わせながら進めます。
底面だけでなく上面も加工しますので、調整と言うよりは再形成と言った方が近いかもしれません。



サドルもばっちりなバランスに出来上がりましたので、最後に鳴りと弾き心地を確認して完了です。
1弦1.9mm- 6弦2.2mm と、アコースティックとしては低めの弦高にセットしました。
その弦高でも、弦の振幅を抑える(鳴りを抑える)要素を取り除いていますので、どのポジションでも気持ち良く鳴ってくれます。



以上、J-45 の例でした。
ネックにねじれや部分的な強い反りがあり、それにより鳴りの寂しさや弾きにくさがあっても、このように改善できます。

鳴りや弾き心地へのお悩みを解消する、PLEK を活用した調整



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