Fender Japan ST72 への、PLEK を活用したリフレット
おかげさまで、日々たくさんのご依頼をいただいている、PLEK を活用したリフレット。
今日は、Fender Japan の定番ストラトの一つ、ST72 の例を紹介します。
ご依頼いただいたのは、こちらの ST72。
「弾きづらくなってきた。鳴りが悪い」とのお悩みからのご依頼です。
元々は、PLEK 調整としてのご依頼でしたが、ネックとフレットの状態の兼ね合いから、リフレットが必要との判断になりました。
まずは、その判断要素について説明します。
こちらが、PLEK により可視化した、この ST72 のネックの断面図です。
2段になっていますが、上段が1弦部の断面図。下段が6弦部のです。
画像見て左側がヘッド側。右側がボディ側です。
下部の灰色の部分が指板で、ネックの反りを表します。
ギザギザがフレットで、その上の数字(mm)がフレットの高さ。赤い折れ線がフレットの頂点を結んだ線です。
見ていただくと、上段の1弦部のハイポジションが、坂道のように反り上がっているのが分かるかと思います。
これは、強い順反りとも言えますが、浅いポジションから起こっているハイ起きとも言えます。
ハイ起きは、あるポジションを起点にネックが折れるように反る症状です。このネックの場合は、8フレット辺りがその起点になっています。
フレット高のバラつきとハイ起きの影響で、ほとんどのポジションで弦の振幅にフレットが当たってしまいます。端的に言えば、音が詰まります。
6弦部を見てみましょう。1弦部とは対照的に、まっすぐ過ぎるぐらいで、部分的には指板が盛り上がっているようにも見えますね。これは、部分的な逆反りです。
逆反りも弦の振幅にフレットが当たりやすくなり、鳴りを抑えてしまいます。
1弦側と6弦側の反り方が、かなり異なっているのが分かるかと思います。
これが、いわゆる「ねじれ」です。
ねじれは、よくある症状の一つではありますが、この度合いはかなり強い方と言えます。
ねじれの度合いが強いと、反りのバランスを取るのが難しくなります。
例えば、6弦部を基準にネックを調整してみましょう。
もう少し順反りに寄せるために、トラスロッドを緩めてみます。
こちらが、ある程度の順反りにセットした6弦部です。
部分的に順反りが強くなってもいますが、全体的には順反りを描けています。
この時に、1弦部はどうなっているかを見てみましょう。
ハイ起きがより顕著になっていますね。先ほどよりもハイポジションの音詰まりが目立っていることが分かります。
では反対に、1弦部のハイ起きを軽減するためにトラスロッドを締めていくと、6弦側はより逆反ってしまいます。
このように、ねじれが強いと、全体的に程よい反り具合にセットするのが困難になります。
「トラスロッドを調整してもしっくりこない」という時は、ねじれがあるのも、よくあることです。
ネックの個性に加えて、今回はフレットの高さも判断要素の一つでした。
もう一度、1弦部の断面図を見てみましょう。
フレット(ギザギザ)の上の数字(mm)をご覧ください。この数字が、各フレットの高さです。
0.8mm台のものが多くあることが分かります。
エレキギターのフレットは、新品時は1.2mm〜1.4mm、中古でも1mmはあるのが一般的です。
ですので、全体的に低くなっていることが分かります。ご依頼主様が弾き込んできたことも伺えます。
ネックの個性が強くトラスロッドでバランスを取れない時は、フレットを削り高さを調整することで、弦の振幅にフレットが当たらないようにします。
ではありますが、今回は、その調整幅を超えていました。
PLEK を活用することで、調整を施した場合にどうなるかをシミュレートすることができます。
こちらが、1弦部のシミュレート図です。
細かいことは省略しますが、仮にこの状態で音詰まりを無くすまでフレット高を調整した場合、ハイポジションのフレット高は0.5mm台から0.6mm台になるということを表します。
これではフレットとして物理的に低すぎますので、このまま調整を施すことはできません。
このように、調整の妥当性や、調整後の状態をシミュレートし検証できるのも、PLEK の利点の一つと言えます。
このように、実測値としての数値とシミュレーション結果を踏まえて検証していきます。
もちろん、ギターの特性や、担当者の経験も合わせながら、リフレットの必要性を考えていきます。
この ST においては、ネックのねじれとハイ起きの強さと、フレット高との兼ね合いから、リフレットが必要との判断になりました。
仮にねじれの度合いが弱ければ、リフレットの必要性は低かったと言えます。ではありますが、いずれにせよフレットは低いので、今後のフレット消耗による音詰まりに対しての調整幅は、ほとんど残らない状態であったと言えます。
そういった時には、今後も永く使われるというご意向に対してリフレットを提案することもあります。
それでは、リフレットへと進めましょう。
まずはフレットを抜き、指板を削り補正していきます。
「フレットの高さを戻すためにリフレット」と思われ勝ちではありますが、リフレットする一番の目的は指板を削るためと言っても過言ではありません。
このネックにそのままフレットを打ち直しても、ハイ起きとねじれはそのままのために、過剰にフレット削らなければバランスは取れません。
そのため、ネックの個性の影響を、指板上で取り除いてあげる必要があります。
削る際は、PLEK で測定しながら進めていきます。
ネックで大事なのは、弦の張力がかかったとき(チューニングした時)にどのように反る(しなる)かですので、それを可視化しながら進められるのも、PLEK を活用する利点と言えます。
こちらが、測定したネック1弦部の状態です。
先ほどと同じく、見て左側がヘッド側。右側がボディ側です。
青い曲線が、目安となる程よい順反り。赤い曲線が実際の指板の状態です。
先ほど見ていただいたように、ハイ起きが非常に強いのが分かりますね。
これを見ながら、どれほど削れば良いかを見定めていきます。もちろん、全弦のバランスと、R も合わせながら進めていきます。
削る、測定する、を繰り返していきます。
削る、測定する、を繰り返し、程よいラインに合わせることができました。
先ほど目立っていたハイ起きの影響が取り除かれているのが分かりますね。
前後で見比べてみましょう。
上段が削る前。下段が削った後です。
目安となる青線と、実際の状態を表す赤線が、ほぼほぼ重なっているのが分かりますね。
これは1弦部ですが、同時に6弦側の逆反りが強い部分も削っており、ネック全体でねじれの影響を取り除いています。
ネックの個性の影響を取り除けましたので、フレットを打ち、新しいフレットの高さに合わせてナットを作り変えます。
今回は、フレットは Jescar のミディアム・ジャンボに。ナットは牛骨をチョイスしました。
フレットとナットは、お客様のご希望があればそれに。お任せの場合は、ギターのタイプとお客様のお好みを踏まえてチョイスします。
そして PLEK で、各ポジションのフレット高と R を整えます。
PLEK でのフレット形成が終わりましたので、見てみましょう。
先ほどと同じく、上が1弦部、下が6弦部です。
1弦のハイ起きと6弦の逆反りが綺麗になくなり、程よい順反りを描いているのが分かりますね。
同じ1弦どうしで見比べてみましょう。
上が元の状態。下がリフレットと PLEK 後です。
ハイ起きの影響がなくなり、弦の振幅を干渉する要素がなくなっていることが分かります。
フレットも1.3mm台と十分な高さになり、何度でも調整できる余裕も生まれています。
フレットが整いましたので、セッティングへと進めていきます。
形成したフレットに合わせてナットを調整し、ブリッジ、サドルを、狙うセッティングに合わせていきます。
お客様のご要望に合わせ、ブリッジのフローティングは控えめに、弦高は1弦1.3mm〜6弦1.8mm と、やや低めにセットしました。
このギターにおいては、リフレットしなければ実現できなかった弦高とも言えます。
セッティングが終わったら、鳴りと弾き心地を確認して完了です。
ここでしっくりこなかったら、手順を戻してやり直していきます。
以上、Fender Japan ST72 への PLEK を活用したリフレットの紹介です。
今回のリフレットは、ネックの強い個性に対する改善アプローチの例とも言えるかと思います。
GLIDE のリフレット https://glide-guitar.jp/pages/re-fret